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宗教的であるとかいう以前に、あの本が出来た背景は、関根先生がカウンセリングを通
していろいろな人達と出会ったという、いわゆる教会の牧師ではない活
>動の部分が大きいわけですよね。 |
関根 |
そうなんだよね。 |
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なかなかそういうカウンセリングするチャンスに巡り会う人っていないと思うんですけど。また、カウンセリングを受ける人も関根先生みたいな人が来てくれてよかったですね。 |
関根 |
先週のフライデーナイトの時、集会前まで埼玉
県の病院でカウンセリングをしてたんだけど、ひとりの女性は一年くらい拒食症で、ずっと大変で、もうげそッりしていて、見るからに健康状態に問題ありという感じだったのね。
その人とは先月会ってるの。先月1時間半くらい話したんだ。 |
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ふ〜ん。 |
関根 |
今月また会ったんだよ。どうしても会いたいっていうから。 |
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ほう。 |
関根 |
会ったらさ、すかっり元気になっててね、ふっくらして。お医者さんもびっくり。すごいねえって言う感じなんだよ。
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へ〜え! |
関根 |
で彼女は「なんだかよくわからないけど、とにかく話が出来たので嬉しかった」って。んでさ、「私の姉は別
に病気ではないんですけど、今度関根先生に会いたいって言ってるんですけどいいでしょうか。」っていってたよ。
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いままでは、痴呆症の家族のカウンセリングをやってきたけど、今ではそれだけではないんですね。
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関根 |
いや、今はもういろいろな病気に悩んでいる人たちの家族、 |
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今のは病気の本人ですよね。
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関根 |
うん、それから最近はお医者さんが、患者さんの問題はメンタルな面
が大きく、薬だけでは直りにくいかもしれないと思える、そういう患者さんが、いっぱいいますよって言うんだよ。んでさ、ほとんどの場合さ、3回くらいカウンセリングすると案外元気に
なることが多いような気がするんだよ。どういうわけかよくわからないんだけどね、俺には。 |
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ふ〜ん。 |
関根 |
すごいよ。 |
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ふ〜ん。 |
関根 |
すごいですよ。やっぱり1年半くらい拒食症で悩んでるってのは本当に深刻で、冗談でなく体重31キロ、30…7、8の人ですよ。子供もいて。唾液を飲むのが苦しいなんて言うんだもん。唾液を飲み込む力がないことがあるって言うんだよ。 |
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もう普通に生活してないんですよね。 |
関根 |
生活どころではないですよね。心配で心配で、家族は病院に連れてきたわけだけ
ど、病院ではさ、検査しても異常ないんだよ。だから、薬出せないでしょ。それ
で変な言い方だけど、お医者さんがいろいろ考えた末、俺んとこに電話
してくれたわけ。 |
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それで1時間半くらいお話したんですか。 |
関根 |
そお。で、一ヶ月たってさ、頬なんてふっくらしちゃってさ。嬉しことがありま
した、なにって聞いたら、最近走れるようになりましたって。 |
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あ〜、そうですかねぇ。 |
関根 |
今までの1年半はね、睡眠時間が1時間くらいだったんだって。
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えー! |
関根 |
それがね、先生と話しをしたら2時間くらい眠れるようになったって言うんだよ。じゃあこれから向こう3ヶ月くらいかけて、睡眠時間が3時間から4時間くらいになればね、おそらくあなたは普通
に働けるようになるから、今日明日って 考えないでこれから6ヶ月経ったら5時間くらい寝られるようになったらいいな
ぁ、とだけ思って生活すればどお、って話しをしてさ。なんか非常に希望的でし
たよ。 |
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やっぱりそれは聞いてもらうってのが一番なんですかね。
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関根 |
うん。 |
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ふ〜ん。 |
関根 |
だからやっぱり日本人全体がっていうか、薬だけで治せない病気があるってのを認識しないとまずいね。
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そうですか。でも聞く方にも、関根先生がよく言う存在論的人間観ってのがないとだめですよね。 |
関根 |
そう、これで私がしゃべりたがったり教えたがったりしたら、即否定されますよ。あなたね、こうすべきですよ、ああすべきですよって言われたら、うんざりして帰ってくんじゃない。
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拒食症になってもあなたには価値があるんだという思い…。 |
関根 |
そうそう、大変でしたよねぇって。遠藤周作が、キリスト教的愛ってのはようす
るに切り捨てないことなんだ、切り捨てない見捨てないことなんだ、捨ててしま
わないことなんだって言ったんだよ。それは非常に深い言葉だと思ってんの。
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あふ〜ん。 |
関根 |
やっぱ、切り捨てられるのを一番怖がるのね。あんなになっちゃってとか。でも
誰かがさ、いろいろ大変がことがあるから状況が変わるよね、とかちょっとゆと
>りを持ってアプローチして行ったらさ、その人は喜んでいろんなことを話してくれるよ。で、それはもしかするとテクニックとかではないのかも知れないんだよね。カウンセリングのテクニックというのではなくて、その人を祝福する視点を持っているかどうか。 |
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そうですよね。 |
関根 |
うん、押し付けではなく。
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関根先生を見ていると、人の話を聞くことが好きだし、聞くことによって自分の中に取り入れられるものがあるだなって、例えば作詞とかの面
でも現れるのか も知れないけど、必ずそういうことが自分に反映されますよね。 |
関根 |
どっかにあるよね。 |
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それが、教えようとか、なんとかしようと思っている人は、それがないと思うんですよ。 |
関根 |
ないですよね。自分が空になることはあってもね。実はね、これはとっても大き
な転機があってね。
アートセラピーで家族のカウンセリングを始めた頃、結局さあ、誰もやったことがないわけでしょう。どうやればいいのかマニュアル書もないわけじゃない。俺もさ、わけわかんなくてさ、いわゆる臨床心理師ではないし、医者でもないし、どうアプローチしたらいいかいろいろ考えて…。
当時、いまから8年前ですけど、僕が考えていたのは、まあ一応痴呆症というのはこういう病気なのでこういうことが起こりうる、ああゆうことも起こりうる、だからあなた方はね、相手が病気だということを認めて、とにかく頑張るしかないってゆう、そういう文章でも書いてね、それで話しが不十分だったらそれを渡して読んでもらえばいい、と俺は一番最初思っていたの。
つまり一番最初はね、教えなきゃってのがあったんですよ、やっぱり。
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はあ〜。 |
関根 |
聖書は持っていけないけど、聖書の言葉は時々ぽっと入れたりなんかして、話し
ができるかなって思ってるわけですよ。
でも4人の人がいて3人がおばさんで、ひとりが息子さんで、その4家族の話しをいやというほど聞いたというか。つまりね、私の知らない世界を話してくれたんですよ。どういう状況か、何が大変か。
この旦那は結婚した当初からこうだったとか、80過ぎたおばさんがさあ、ね。50年くらい前の話を始めてさ、何も言いようがないじゃない、俺なんか。話しの割り込みようがないわけ。
私が結婚したときはああでね、物価がああでこうで、その当時から働くのが嫌いで、なんて言われてもさ。そうですかしか言えなくてさ。経験値から言ったら、俺達のはるかにはるかに上行ってるからさ。わかんねよ。 |
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はっ、はっ、はっ…。
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関根 |
それでさ、そういう状況の中で、ずうっと聞くしかなかったんだ。で、私として
は第1ラウンドはフラストレーション一杯だったんですよ。これでいいのか。な
んにも教えていない。持ってきた、この紙を見せる機会もない。 |
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はい、はい、はい。
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関根 |
聖書の言葉も、全然伝えることがうまくいっていない。これでいいのかっ、ての
があるわけでしょ。でもさ、止まらないんだよ、話が。
俺は一番最初にね、愚痴をこぼしてもらいたい、で、ぜひ人の愚痴をいろいろ聞きながらどうも悩んでいるのは自分だけではなさそうだということを味わってもらいたいのだ、答はあるとは思わないでもらいたい、俺もわかんないから、ということを一応言ってあるから、みんなは安心して「そりゃそうだよ。」なんて言いながら、言いたいことを言い始めてるわけね。 |
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なるほど。
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関根 |
俺はもう少しみんなが、患者さんの話しをしてくれると思ったの。 |
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そうですよね。 |
関根 |
うん、うちの患者こうで、ああで。ところがさ、それは一通
り話してくれたんだ けど。そっから先、「だからね、私は本当大変なんですよ」って自分の話しをす
るわけですよ。
それが俺は最初わかんなかったの。家族の悩みは患者のことで、患者が大変だという話しを聞こうと思ってたわけだから、まさかそこでさ、「それゆえ私はこんなに苦労している、私も家出をしたい。」なんてさ。そこまで話しが出ると思わなかった。とにかくずっと話しが続いちゃってさ、途切れないんですよ。
であっという間に時間が経っちゃってさ、関根先生そろそろ向こうでね、アートセラピーやってる患者さんの作品が出来上がって好評会があるから向こうの部屋に来てください、なんて言われてさ。ありゃま、俺なんにもしゃべんないでいこうっていったのにって、すっごい気まーずい感じだったの。 |
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はっ、はっ、はっ、はっ。 |
関根 |
「あ、時間なんですって、すいません。」なんて言って。でもまあ一応時間だか
>ら出口の所でひとりひとり挨拶してね、「ありがとうございました。いろいろ話しを聞かせていただいて。」なんて言ってさ。 |
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うん、うん。
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関根 |
いろんなこと言うんだよ、極楽のようでした、知らない人にこんなに話をするな
んてね、私も馬鹿だと思うけど、本当に気が晴れました。
…で、最後に黒一点の男性がさ、「関根先生、今日はすばらしいお話をありがとうございました。」なんて言うんだよ。
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ふ〜ん。 |
関根 |
その出来事はね、私にとってね、牧師の教えたがり屋を木っ端微塵に粉砕する出
来事でしたね。 |
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ふ〜ん。 |