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作ったけど、ロシアではまだ歌ってくれてないということですか。
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鈴木
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ロシアでは
なかなか演奏してくれない。
そのCD-ROMを聞かせてもらったら、
そんなに難しい曲じゃなかったけど、
下のこの音が必要なんだ、って。
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晩祷にも
パートとしてオクタビストってのが、
あるんでしょ。
それがロシアの音楽の特徴ですか? |
鈴木 |
ロシアの教会の中には、
一切の楽器がないんだよ。
パイプオルガンさえない。
そうなるとアカペラしか
出来なくなるから、
合唱団の中に
オルガンのペダルトーンのような音を
作りたかったんだね。
楽器がないから、
声でそういう音を
要求してきたんだと思う。
オルガンのペダルトーンのように低い音は、
音程がとれない。
空気のような音が
「ボー」っとするだけで、
どの音程かなって感じ。
その音にオクターブ上の音を
出すことによって、
下の音がちゃんと鳴ってくる。
普通のバスの人がいて、
そのオクターブ下を歌うと、
重なり合ってちょうどよくなる。
そういう音域を出す人が
ソビエト時代には結構いた。 |
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今はあんまりいないんですかね。 |
鈴木 |
いないって言われました。
そういう人はソビエト時代、
それこそ年金で食べていけてたんです。
国の保証が全部ついてた。
芸術功労賞という
肩書きがもらえて、
それは終身年金なんですよ。 |
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国がなくなったら
みんな働かざるを
得なくなったんですかねえ。 |
鈴木 |
そう、そう。
昔日本にも2、3回
来たことがあるけど、
ソビエト時代の最高の合唱団で
アカデミーロシアってのがあって、
そこに2人オクタビストがいたんですよ。
おじいちゃんだったけど。
その人たちは、
他の人が延々と歌ってるのに
なんにもやんない。
そして最後に超低音の場面が来て、
「あ----」って出すわけ。
その音域は僕らから言っても
とりずらいような音。
昔はどうやってそんな音を出すのか
わからなかってけど、
ちょっとのどを鳴らすんだよね。
その合唱団はソビエト時代に
晩祷を録音してるんですよ。
ソビエト時代は宗教禁止の状態で、
教会はつぶされるし
教会音楽も一切禁止だった。
その合唱団の指揮者が
ラフマニノフの晩祷を見つけて、
ともかくこれは録音したい
と思ったんだけど、
見つかるとどんな弾圧を
受けるかわからない。
だから練習もせずに
録ったみたいなんだよ。
もちろんソビエトでは
発売しなかったんだけど、
西側で発見されて
センセーショナルだった。
こんな合唱曲があったのかってね。
それは伝説になってる。
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聞きました? |
鈴木 |
聞きましたよ。
男性の響きがねえ、
オルガンですよ。
なんでこんな音がするんだろう
って感じです。
音が切れない。
ただひたすら「ボー、ボー」
でもソビエトが崩壊して、
その人たちはみんな
散り散りになってしまった。
シュベリドフの甥が言うには、
そういうオクタビストは
各合唱団にひとりずつはいたんだけど、
今はいないそうです。
ロシアの小さなアンサンブルが
日本にくることがあるけど、
やっぱりいませんね。
だから僕に「やってくれませんか?」
って言ってくるんだろうけど。
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考えてみたらすごい話ですねえ、
そんな楽譜までもらってきて。 |
鈴木 |
まあ、ロシア人にも
ちゃんとオクタビストとして
聞こえたんでしょうね。
行く前から、もうそれだけが心配だった。
透析のこともあったけど、
それプラス俺の声って
ロシア人の耳にオクタビストとして
聞こえるのかなってのが。
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そうですねえ、本場でねえ。
でも、「お前は本物だ」と。
チェチェン人にも見えるし。 |
鈴木 |
そうだね。
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