私たちの生活

第4話

「虫の知らせ」という言葉がある。
神の存在を信じない人でも、何かしら外側からの促しにより、
不思議とタイミング良く動く事ができ、
助かった、という経験を持っているのではないか?

「面倒くさい事は先送り」
「お尻の重さには自信あり」

こんな私たちが、糖尿病と向き合って、
何らかのアクションを起こすまでには、
『促し』は1つや2つではとても足りなかったようである。

「ちょっと、医者いつ行くの!?」
「わかってるってば!」

「ちょっと、それ、今日何本目(のペプシ)!?」
「いちいち、うるさ〜い!」

そうしてまた、潮が引くように私の不安も引いて行き、
しばらくはまるで 何もなかったように生活は続くのである。

しかし、『促し』は色々な形でやって来た。

ある時は本屋で何気なしに雑誌コーナーを眺めている時だった。
「きょう の健康」という雑誌が目に入った。
どうやらNHKの「きょうの料理」の健康版らしい。
表紙に書かれていた
「患者・予備軍1400万人/あなたを狙う糖尿病」
の文字が飛び込んで来た。
早速購入して読んでみる。
初心者にも分かりやすく糖尿病の自覚症状の数々、
合併症の恐ろしさが説明されている。
血糖値の目安もグラフで示されていた。
これはもう決定的である。

また、ある時はたまたまお医者さんと懇談する機会に恵まれた。
そして話 はいつしか糖尿病の事になり、
そこでまた合併症の恐ろしさ、
血糖値コント ロール早期開始の大切さを懇々と語られた。

行きつけの定食屋へ行っても話題は糖尿病。
知り合いの奥さんとおしゃべ りしていても、気がつけば糖尿病・・・。

ところが「糖尿病、糖尿病」と頻繁に口にするようになった私に、
いや〜 な顔をするのが当の本人だ。
この期に及んでもまだ、自分は“白”だと信じ ていたいらしい。
「ね、糖尿病の人って、のどがよく乾くんだって。
そう言えばダニエルって、いっつもデカいペットボトルの水、
持ってるよね?」と言った日には、
「ヘルスチェックで何の問題もなかった昔から、
僕はよくのどが渇いたん だ!!」と断言されてしまった。

が、こんな事をくり返すうち、ついに彼も観念したようである。
ある土曜 日の朝、私たちはようやく糖尿病専門クリニックへ
向かったのであった。

最後に受けた健康診断で「要精密検査」と書かれた日から、
実際に私たちが医者へ行くまで、実に1年以上の月日を要した。

もし、糖尿病の恐ろしさ をきちんと認識していれば、
こんなに悠長に構える事もなかったはずだ。
が、それでも私たちは、どうやら滑り込みセーフで
間に合ったようであっ た。
これはもう、神の憐れみとしか言いようがない。
なぜって、私たちは自分たちのフットワークの重さを、
いやというほど知っているから・・・。

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