私たちの生活

第5話

どんな事にせよ、ものごとの始まりには特に力が必要である。
車のギアと 一緒で、いったん軌道に乗ってしまえば
大して苦もなく動いて行く事でも、
はじめの一歩には自分を押し出す大きな力が必要だ。
まぁ、時には外堀を固 められ、お尻に火がついて・・・
という状況が推進力となる場合もあるが、
願わくばその手前で主体的に動きたいものである。

生活習慣病で言うならば、一番望ましいのは、
日頃から予防的なライフスタイルを確立する事であろう。
それができなくても、せめて定期的な健康診断と共に
懸念事項があれば、速やかに対処するという事か。
身体に何か決定的な異変が起きてからでは、
悔やんでも悔やみきれない・・・。
特に生活習慣病は、私たち自身に
委ねられている部分が大きいのであるから。

さて、重い腰をあげてようやくクリニックへと向かった私たち。
こじんま りとしたの待ち合い室の壁には
「糖尿病食事指導教室」の日程やらポスターやらが
所狭しと貼られている。

尿と血液を採って待つこと十数分。ついにダニエルの名前が呼ばれた。

・・・今までの不摂生を怒られるのかな。
・・・でも案外、この一年の間に状況が改善しているかも・・・。

あらぬ期待を抱きながら診察室へ入った私たちに、
お医者さんは開口一番
「これはもう、入院が必要なレベルだな。
できれば、今日すぐ入院した方が いい。」 と言った。

え?入院?ちょっと待って、いくら何でもそこまで・・・??

状況がよく飲み込めない私たちに、
お医者さんは色々な数値を見せながら説明を始めた。

まず、空腹時で血糖値が300mg/dl以上もあること。
この数値は健康診断時よりもずっとひどくなっている。

次に糖鎖ヘモグロビンという値の説明を受けた。
糖は血液中にあるヘモグ ロビン(そう言えば昔、理科で習いましたね)
と結びつく性質を持ってい て、血液中に糖がたくさんあれば、
その分、糖とくっついてるヘモグロビン の割合も高くなるそうだ。
普通の人では4〜5%、ダニエルは13%もあ る。
この値が7%を越えていると合併症のリスクがとても高くなるのだ。

次に・・・、話はまだまだ続いている。

ある程度覚悟していたとは言え、ここまでだったとは・・・。
説明を聞き ながら妙に冷静になって行く自分がいる。
「完璧に糖尿病ですね。こんなに血糖値が高かったんなら、
ずいぶん疲れやすかったんじゃありませんか?
ここはクリニックですから入院設備はありま せん。
近所の病院に紹介状を書きますから、すぐそちらへ行って下さい。
今日は土曜だから診療はお昼までだけれど、
今行けばまだ外来も間に合うで しょう。」

何が何だかわからないまま、紹介状を持たされて、
私たちは近所の病院へとトボトボと歩いて向かったのであった

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