私たちの生活

第7話

最近更新された数字によると、
糖尿病の患者&予備軍はすでに
6人に一人 の割合になっているそうな。
1997年に厚生省(現・厚生労働省)が
大規 模な調査を行った時10人に一人の割合であり、
この時点で2010年には 2倍、
つまり5人に一人となるだろうという予測だった。
それが2003年 現在で、既に6人に一人・・・。
日本人の健康は加速度的に蝕まれているの だろうか?

さて、とうとう入院騒ぎとなってしまったダニエル。
彼を病院に残して家 へ戻ると私もぐったりと疲れていた。
子供の頃からペプシと共に生きて来た彼に、
それをやめさせる事なんてで きるのだろうか?
私が四六時中見張っているなんてできっこない。
そして、今後は私があの『糖尿病患者食』なるものを研究して
作らなけれ ばならないのだろうか?
ご飯何グラム、魚何グラム・・・
いちいち食材を秤で量ってバランス良い献立を
考えなくてはならないらしい。
弁当だって持たせなくてはならない。
あぁ、私は仕事もやめ、自分のやりたい事もすべて諦めて、
糖尿病の食事 づくりに
一生を捧げなければいけないのだろうか・・・。
妄想はどんどん膨らんでゆく。

ところが・・・。

翌日病院を訪ねた私は、ダニエルの変化に驚いた。
一夜のうちに、彼はこ れまでの自分を振り返ったらしい。
『食べる事は生きる事』という言葉を聞いた事がある。
私たちが、人任せ の人生ではなく、
主体的に生きたいと願うなら、
何を食べるかについてもま た、
主体的に選ばなくてはいけない、という意味だと思う。

私たちは、今まで欲望の赴くままに、食べて来た。
しかも手間を惜しんで
簡単に口に入るものへと、ついつい流された。
それは、もちろん日常の生活 が忙しくて、
調理の時間を極力短くしたい、
という事もあったのだけれど、
そのように忙しい日常を選択しているのもまた、自分なのだ・・・。

とにかく彼は、とても前向きになっていた。
医者へ行くのさえもさんざん渋っていた昨日の彼とは、
まるで別人になっていた。
自分の置かれている状 況を、たとえ惨状であっても
しっかり見据えて、受け入れ、そして向きを 変える。
穏やかだけれど、彼の表情からは新しい力が感じられた。

入院騒ぎは、大きなアラームとなって
彼の目を覚まさせたのだろうか?

彼の意欲に触れたら、今度は私もワクワクして来た。
これからは食事にも気を配って、もっと心を込めて
日々の生活を生きて行こう。
昨日の殉教者の 気分はどこへやら、
この新しい冒険の始まりを歓迎している自分がいた。

それにしても、病院の食事は笑っちゃうほど少なかった。
糖尿病患者に対 しては
他の入院患者とは違う、特別メニューが配膳される。
ご飯の代わりにパンを頼んだダニエルの食事には、
ロールパンが一個半つ いて来る。
別にご飯が嫌い、というわけではないのだが、
何故か彼はご飯は身体に合わないと固く信じているフシがある。
そこで、おかずが魚の煮付け だろうが、お浸しだろうが、
必ずロールパン。
合わないなーと思うが、
外人 だから、そういう事はあまり気にしない。
典型的なメニューは、魚の切り身を
油を使わないで調理したもの、
野菜の お浸し、
パックの牛乳、
バナナ半分、
それとロールパン。
ちびちびと食べても、あっと言う間に「もう終わり〜??」と
嘆くダニエ ルにはかわいそうだけど、
これが、糖尿病患者の食事なんですね。

新しい冒険の道は、なかなか険しそうだった。

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