編 集 |
はーあ、でしょうねえ。それいくつくらいのことですか。 |
鈴 木 |
ちょうど23ですね。
仙台の大学終わって、アルバイトして9月にアメリカに行った。
だからそれを聞いたのが9月の末くらいでしたね。 |
編 集 |
それは有名な曲なんですか。
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鈴 木 |
うん、「Let
us break bread together、共にパンを分かち合おう」。
それを歌ってた。
それまでロジャーワグナーとか他の大きな合唱でその歌はよく聞いてたんですよ。
で、いい曲だなあと思ってたやつを「生」で色の黒い人が歌ってんのを見たら、「うわーすごいー!」。
それでその感激が残ってはいましたよね、ずっと。
その後日本に帰ってきて、プロでカルテット始めたんだけど、カルテットの中にスピリチュアルって必ず入れるんですよ、どんなコーラスグループも。
それが基本的なものだから。
でも歌ってるうちにだんだん自分がいやになってくるんだよね。 |
編 集 |
へえー。 |
鈴 木 |
ライブハウスとか仕事としてやれる場所はともかくどっこでも行った。
レパートリーとしては 「ダンバーイザリバーサイー」(Down by the river
side〜)とか「サムタイム、アィフィーラカ」(Sometime I feel like a〜)とかもコーラスでやったし、「ノバーディノウ」(Nobody
kown〜)って歌うじゃない。
僕はクリスチャンじゃなかったんだけど、そこで黒人霊歌を歌ってるといやになってくるんだよね。「なんでこの場所で、この曲を歌はなきゃいけないのかな」っていう、不似合いなところがいっぱいあるわけじゃない。
俺は黒人霊歌って好きで始めて、そしてあの時聞いた感動とかいい音も自分の中に入ってる。
でも俺が歌ってる場所は、立川のガード下のキャバレーだったりするわけよ。
50代後半のホステスばっかりだとかさ。 |
編 集 |
ふ〜ん。 |
鈴 木 |
そこでスピリチュアル歌ってるのが、なんかね、自分の中でいやになってきた。
で、ほんとにちゃんとスピリチュアルを歌いたい。歌うっていうのは現すってことで、そうしたくなったんでしょうね。
最初にカルテット始めた時は僕は全くお金。生活のため。 音楽活動でお金もらえるというのが、一番だった。
何かを表現するってのは2の次だったから。
でもやってるうちにだんだん俺ってもっと表現したいんじゃないのっていう、自分に対する問いかけがあったんだ。
それはわかってたんだよね。 でも「いやそんなことはない」って言い聞かせてたんだろうね。今こんな場所で歌ってることもなんとかセンターで歌ってることも「音楽活動なんだから」と自分で割り切れるだろうと思ってやってんだよね。
ところが、 だんだん割り切れなくなってくるの。
それはさっきのスピリチュアルの時が一番。 |
編 集 |
他の曲ではそんなに感じなかったですか。 |
鈴 木 |
そんなに言葉としてないですよね。
いい曲になればなるほど、楽曲としていい言葉ってのがあるから。
それが英語の言葉であっても、この言葉を言うってのはどういう気持ちなんだろうってのが、自分でわかんないでやってるっていうのがね、いやになってきたの。
「ノーバイディノーズ」って歌うでしょう、「グローリ、ハレルーヤー」って。そのグローリーハレルヤってどんな気持ちなんだろうかなあって。やっぱ、考え込んでしまうんだよ。
「どうやったらそれが自分の中で割り切れるんだろう。ほんとにそう思うのはどういうことなんだろう。酒を飲んで歌う訳じゃないんだよなあ。」って、それは随分長いこと考えてた。それが一番大きなストレスだったね。 |
編 集 |
へーえ、それは人の曲とはいえ、だんだん自分の曲になってくるんですね。 |
鈴 木 |
そー、ですね。
どこでどう発生した曲かわかんないけど、でも明らかに自分を通るわけじゃないですか。
自分の中を通って出るときに、自分がなにを醸し出すかとか、どこでどう咀嚼するか。
そのことって悩まない人もいっぱいいるんだけどね。 |
編 集 |
鈴木さんはどっかでひっかかったんですかねえ。 |
鈴 木 |
僕は、どおおおーしても引っかかってしまう。
遡ってみると、宣教師にアメリカに行けと言われて、教会でお世話になったということもあったし。
得体も知れないさ、どんな奴かもわからないような人を受け入れて、世話をしてくれるそのアメリカのクリスチャニティーというか、俺みたいなのをなんで受け入れてくれたのかなというのを、ずっと引きずってたんだ。
俺、なんのためにアメリカに行ったのかなとかね。 |
編 集 |
すごいですね。そういう出来事から何年か後に、歌を歌っていて、歌詞を考えさせられるようになるんでしょ。 |
鈴 木 |
自分ではすごいことじゃないんだけど、人が言うとすごいなあって思う(笑い)。
そうなっちゃうんだよ、それが一番大きかったのがスピリチュアル。 |
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…つづく
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